豊田工大Release
【大学での学び】豊田工業大学にとって「博士後期課程」とは、どういう存在なのだろう?
2026.09.24

1995年10月4日、博士後期課程設置記念式典であいさつを述べる豊田英二 初代理事長
1995年4月に開設し、昨年、30周年を迎えた「博士後期課程(以下、博士課程)」。
建学の理念に基づき、"時流に先んずる"特色ある博士課程を目指して歩みを進めてきましたが、この博士課程の開設こそが、本学をより高度な研究を活発に行う大学へと質的に変化させ、社会的な評価を確固たるものへと押し上げる大きな転換期となりました。
「博士」と聞くと、一部の特別な人が目指す、遠く離れた世界に思われるかもしれません。しかし、世界へ目を向ければ、博士号(Ph.D.)は高度な知性と自立した思考力を証明するグローバル標準の"能力証明"であり、社会の課題発見・解決に挑む研究者の「スタートライン」として定着しています。日本でも工学の領域では、2024年度は3,603名*が博士課程を修了しました。国や企業からの博士人材に対する期待と需要は年々高まり、活躍のフィールドは広がりを見せています。
「変わらざるものは、時の流れに逆らってでも守る勇気をもち、時代の流れには、柔軟かつ創造的に対処する機動力を」と願った、本学初代理事長・豊田英二氏の精神を、どのように具現化しているのか―。今なお進化を続ける博士課程の現在地と未来への展望をお伝えします。
*文部科学省「2025年度学校基本調査」より。博士課程(修業年限3年)の全修了者11,166名のうち、工学分野は約32.3%を占める。

| 博士人材とは 博士人材は、深い専門知識と、課題発見・解決能力などの汎用的能力に基づき、新たな知を創造し、活用することで、社会の変革、学術の発展、国際的ネットワークの構築を主導し、社会全体の成長・発展をけん引することができる重要な存在です。 (文部科学省 2023年度「博士人材活躍プラン」より抜粋) |
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博士後期課程概要
| 名称 | 豊田工業大学 大学院工学研究科 博士後期課程 |
| 専攻 | 情報援用工学専攻 / 極限材料専攻 |
| 募集人数 | 12名 |
| 在籍学生数 | 16名(2026.5.1) |
豊田工大博士課程の魅力「知のプロフェッショナルを目指す」
社会システムや産業構造が激変する現代、求められるのは深い専門性と高い課題発見・解決力、そして新たな知を創造する力です。そして、それらの能力を極限まで磨き上げるために不可欠なのが「研究に没頭できる環境」です。本学の博士課程には、生活や将来への不安を払拭し、研究への飽くなきチャレンジを支える手厚いサポート体制と充実した研究環境が揃っています。

- 多様なキャリア形成
大学や国立研究機関といった"アカデミア"としてのキャリア形成はもちろん、近年では民間企業の研究・開発部門の第一線を目指す学生も増えています。第一線の研究者が伴走する「メンター制度」や、3か月間に及ぶ国内外の「インターンシップ」といった実践的な教育体制により、多様なフィールドでの活躍を可能としています。
| 本学博士号取得者の進路(2025年度修了者4名) 立命館大学研究員、株式会社オキサイド、トヨタ自動車株式会社、本田技研工業株式会社 近年の博士号取得者の進路 本学ポストドクトラル(PD)研究員、産業技術総合研究所PD研究員、大塚化学株式会社、住友電気工業株式会社 など |
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- 安心して学べる経済支援とエンカレッジ
本学は博士学生を「高度な研究活動をけん引する大切な研究者」と考え、これまで手厚い支援を行ってきました。従来の「博士奨学金制度Ⅰ(年額310万円支給/授業料込)」に加え、学振特別研究員DC*採用者へ年額120万円を支給する制度を新設。これにより、学振DCからの研究奨励金および授業料免除を含め、受給総額は最大年額462万4,000円となり、若手研究者の挑戦を全力で後押しします。各種奨学金には支給要件が定められています。詳しくは募集要項などでご確認ください。
*優秀な博士課程学生が研究に専念できるように、日本学術振興会が研究奨励金等を支給し育成する制度
変わらざるものを胸に、変革の時代に挑む ~ 副学長×博士課程修了者対談 ~

在学生や未来の豊工生に向け、「博士課程は決して特別な人だけのものではありません。"博士"という選択肢を未来の地図に加えてほしい」とメッセージが贈られました
(左)齋藤 和也 副学長
(右)日本原子力研究開発機構(JAEA)先端基礎研究センター 研究副主幹 鈴木 誠也 さん(2015年 博士後期課程 極限材料専攻 修了)
最前線で発揮する「博士号の真の価値」
齋藤先生 鈴木さんが所属されているJAEAのような、日本を代表する研究機関の最前線では、博士人材の必要性をどのように感じていますか。
鈴木さん 「研究者は博士号を持っていて当たり前」という世界です。私が所属する「先端基礎研究センター」では、新しい物質や現象を見い出し、その性質が生まれる仕組みを原子や電子のレベルから解き明かす「基礎研究」を一貫して完遂できる力があって、初めてスタート地点に立てます。近年はAIなどの最先端ツールを使いこなすことが当たり前になり、研究のスピード感が激変しています。AIが得意とする部分は任せてしまって、人間は「人にしかできない未知への探究」に集中する。こうした新しいツールを使う場面では、若い世代の感覚や柔軟性が大きな強みになります。だからこそ今、若い博士人材が切実に求められているのだと感じます。
齋藤先生 世間では"博士"というと、「特定の研究テーマにおいて高い専門性を持つ知識人」と思われがちですが、JAEAの現場にいるからこそ感じる「博士号の真の意義」とは何でしょうか。
鈴木さん 豊富な知識を備えていることは当然であり、問われるのは「自立した研究者としての力」です。修士までは指導教員のもとで研究を進めることが多いですが、博士課程では「課題の発見・設定」「計画立案」「実験・実証」「論理的体系化(結論)」「成果の発信と共有」の全プロセスを自力で完遂する力を身につけます。未知の課題に対し、自ら問いを立ててブレイクスルーを起こす。このアプローチこそが博士号の真価だと感じています。
「納得いかない」から始まった博士への挑戦
齋藤先生 鈴木さんが博士進学を決意された背景をお聞かせください。
鈴木さん 最初のきっかけは、学部3年時の豊田中央研究所での「学外実習」です。研究に情熱を注ぐ研究者の姿に魅せられ、そこで「博士」を初めて意識しました。その後、修士課程での自分の研究成果には全く納得がいかず、「このままでは終わらせたくない」という悔しさが最も強い動機だったと思います。あとは、指導教員である、吉村雅満教授の「行こう!」という後押しです。その後の博士課程も甘くはなく、「未知に対峙し、その中で価値があるものを見極める喜び」に、真の意味ではたどり着きませんでした。博士号取得後、自分のアイデアで研究を継続する中で、今ようやく、その喜びに近づきつつあるように感じています。
齋藤先生 「足跡のない方へ」進む楽しさと厳しさを味わえるのが博士課程です。本学では、博士課程を担当する教員が一体となって学生を育て上げますが、鈴木さんは本学の環境をどう振り返りますか。
鈴木さん 目には見えないけれど、学生の能力を引き出す「無形の仕組み」が、学部の頃からあったように思っています。学生寮で周囲と切磋琢磨する文化をはじめ、小規模大学だからこそ叶う専門分野を超えた指導、そして大学からの手厚い支援で実現する国内外での実習などを通じて、研究者としても人間としても爆発的に成長できました。そうして築いた確かな土台があったからこそ、博士課程での厳しい研究も乗り越えられたのだと思います。博士課程では、専門領域の異なる教員からも、科学者として本質を突く質問が投げかけられます。単に成果をまとめて発表すれば合格、という甘い世界ではなく、表面的な説明では通用しません。真摯に問いと向き合う姿勢や諦めない粘り強さはもちろん、現象の根底にある物質の性質やその起源まで、何段階も深く探求する能力が求められます。そうした厳しい鍛錬の積み重ねが、今の私の大きな力になっています。

2015年度の学位授与式にて、指導教員の吉村 雅満 教授(写真右、表面科学研究室)と
成長し続ける 「伸びしろ」をつくる
齋藤先生 本学がさまざまな支援策を講じ博士課程に力を入れるのは、日本をけん引する人材を育てるとともに、本学自体が「研究大学」として、持続的に成長し続けるためです。
鈴木さん 振り返ると、豊工大の取り組みは世の中の20年先を行っていました。手厚い支援や実践的なプログラムなど、「時流に先んずべし」の精神が脈々と息づいています。目先の成果だけにとらわれず、広い視野を養う学修・研究姿勢が求められることも大きいですね。私の場合、専門は表面科学ですが、在学中にクリーンルームでリソグラフィ(微細加工)の一連のプロセスを経験したため、半導体デバイスの作製までこなせます。最先端の装置を学生でも存分に使える環境と、物理と工学を横断して学んだ基礎学力があるからこそ、今の私には研究の「裾野」が広がっています。現在は、自分のアイデアを起点に進めてきた二次元物質*の研究が、先端半導体や量子コンピューティングへの応用も見据えた新たな段階へと進んでいます。もし将来、研究や産業の常識が大きく変わっても、それすらチャンスにできるーそうワクワクしながら日々の研究に取り組んでいます。
*二次元物質:原子一層ほどの薄さをもつ物質。代表例のグラフェンに関する画期的な研究は2010年のノーベル物理学賞の対象となり、先端半導体や量子技術への応用が期待されている。
齋藤先生 重要なのは、本学の学びは学部・修士の段階からそうした「未知に挑む思考の土台」を育てている点です。在学生全員がすでに博士課程への可能性を持っていると考えています。
鈴木さん 博士課程は決して特別な人だけのものではありません。博士課程で身につけた力は、研究者に限らず、その後のキャリアの可能性を広げてくれます。豊工大には、それを支える充実した環境と先生方の手厚いサポートがあります。ぜひ自信を持って「博士課程という選択肢」を未来の地図に加えてほしいですね。
齋藤先生 力強い言葉をありがとうございます。本学も「変わらない理念」を守りながら時代の変化に合わせて進化し、世界で活躍する知のプロフェッショナルを育ててまいります。
